サムライ8 八丸伝 第12話「誰のために、何のために」感想⑤
(八丸…お前…)(フルタ博士)
「父ちゃん…
そのテンテキってもうヤダ…
オレ痛いのキライなんだ…痛いのは独りになるより
キライなの!」(八丸)
フルタ博士はアタさんら烏枢沙魔流の社会で研究者として働いていたんじゃーないかと、僕は考えています。もしかしたら…なのですが、八丸の前の「7人」と八丸が似ていて、八丸を含めた全てが「鍵」としての因子を持つ(=侍になれる)など、相当限定的な存在だった点を踏まえて、遺伝子的に調整された可能性を八丸らに感じています。ぶっちゃけ「パンドラの箱」を開ける為の「鍵」(=キーユニット )を作る為に生み出されたクローンか何かなのではないかと、僕は考えています。
「鍵」の因子を持つ子を創って、その子をある程度育てて、ロッカーボールの儀式を経て鍵侍を造り、その後散体させてキーユニットのみを手にする…という流れで、アタさん達は「パンドラの箱」の「鍵」をゲットする…ある意味、非人道的なやり方でこれまで「7人」を達麻に先んじて手にして来たのだと、僕は考えます。それに対して達麻が50年も費やして八丸が「1つ目の鍵」だったのは、アタさんたちがやるような非人道的なやり方ではなく自然な出会いによるアプローチだったからではないでしょうか?
だから、達麻は八丸に感じる…かつてない「強い引力」に疑問を持ち、フルタ博士の鼻先に童子切高綱の真剣をチラつかせて詰問したのではないかと思います。八丸は明らかに不自然だったのです。フルタ博士もお口が相当に堅くて何も語りませんでしたが、彼もまた烏枢沙魔流の非人道的なやり方が受け入れられずに八丸を連れ出して行方をくらましたのではないでしょうか。それでニリ姫に見つからないように八丸を家の中に隠し、八丸が簡単に出歩けないように生命維持装置という鎖に繋いだ…。
フルタ博士が想い出す点滴ですが、もし本当に生命維持装置が機能していたなら、わざわざ八丸が嫌がるのに腕に太い点滴の針を刺す必要はなかった筈です。日々…定期的に点滴してる上に虚弱な八丸の負担を考えれば、既に挿管された循環器系の管に留置したバイパスから薬液を注入するのが妥当です。フルタ博士の点滴とは八丸を医療的にサポートするのではなく、痛みに対するネガティブな気持ちを生み出し、八丸を「弱虫」にする為に意図されたものではないかと、僕は思うのであります。
フルタ博士は八丸を外に出したくもありませんし、ましてや侍なぞにしたくないので、できるだけ虚弱で気の弱い子だと八丸に思い込ませる必要があったのです。そもそも八丸は「鍵」としての因子を持つ子なのですから、侍になれる資質がありますから、それと真逆に育てなければならない事に関してフルタ博士にも葛藤はあったでしょう。しかし、侍になればニリ姫に見つかり、アタさんがきっと襲ってくる…。そんなフルタ博士の中の矛盾がアタさんに立ち向かい必死に戦う八丸の姿に掻き回されているように、僕は感じています。
<ズバババ>(アタ)
「ぐっ!!」(八丸)
「は…八丸くん!!」(アン)
「ニャン!!ニャン!!」<ダッ>(早太郎)
「わっ!」<ドサ>(八丸)
<ガッ><ズザ>(八丸)
<サッ>(アン)
<ガッ><ズバ>
<ガッ>
<ハア><ハア>(八丸)
「!」(アタ)
一方、達麻以上の剣豪であるアタさんに袋叩きにされる八丸。アンちゃんが目を背けてしまう悲惨な状況にも八丸の目が死んでないんです。それに加勢する早太郎もいい面構えになってきました。それでも八丸はアタさんにどんどん切り刻まれて行きますが、とうとうアタさんの刃を八丸の侍魂が阻むのです。ここでやっと八丸はアタさんと剣を交えられたのです。よく見ると八丸の右手には侍の鎧らしきものも纏われ、この刹那における八丸の目を見張るような急激な成長にアタさんは何をか感じています。
そもそも八丸は「パンドラの箱」の「鍵」たる何らかの因子を持って生まれてきた子であります。それは鍵侍になる運命を持っていた…という事でありまして、それとは真逆とも言える成長を遂げていたのはフルタ博士の意図によるものと思われます。それがロッカーボールの儀式により八丸が「本来の姿」を得た事で崩れ始めた訳です。こうして剣豪・アタを前に果敢に戦う八丸こそ、「本来の八丸」だと知るフルタ博士の罪悪感が、それとは逆に八丸を穏やかな愛の檻で囲いたいと願う親心と鬩(せめ)ぎ合う…。
そんなフルタ博士の複雑な心境が、その走馬灯にも似た幼き日の八丸の行動と今を重ねるフルタ博士の今にも閉ざされてしまいそうな眼差しに絶妙に描かれています。ここはまるで岸本先生の作画を見ているようです(大久保先生がビクッ!!っとしてませんように…笑)。ここから先、各キャラの眼差し…というか、瞳の動きに注目して欲しいんですよ。それぞれのカットにものすごい情報量があります。見逃さないで!!これがちゃんと描かれているのは現在の週ジャンだと『サムライ8 八丸伝』だけですよ。
「いざ!!
バトルランキング1位だ!
1/120フレームを見ぬく男!」(八丸)「よかったな…
で…それが何の役に立つ!
とっくに点滴の時間だ!」(フルタ博士)
<サッ>(八丸)
<ブン>(アタ)
<サッ>(八丸)
<ブン>(アタ)
「!」(見切りはじめてる!)(葉芽道)
<チラ>(アタ)
フルタ博士がネトゲを楽しむ八丸を想い出しています。家の中から出れない状況ですから、このくらいは…という感じでフルタ博士も許していたんでしょう。しかし、八丸はその中で才能を開花させていったんですね。1/120フレームって120FPSの事ですかね。つまり秒間120コマの一枚を八丸は見切れる目を持っているんです。そして、それに反応して指を動かして対処できる情報処理能力がある事を意味します。それがあるから、侍ゲーのバトルランキング1位になれたのです。
八丸は侍のサイボーグの身体を手に入れましたから、動体視力を含めた視力の上限はロッカーボールテクノロジーの上限で一律か否かは断定できませんが、デバイスとしての眼球はロッカーボールに帰属すると思われます。それに対して、キーユニットは素性的に八丸に由来しますので、八丸のニューロン等神経系の能力が上限を決める筈です。また侍になった以降の八丸の行動を吟味してもキャッシュメモリー等が増設された節も見受けられませんので(笑)、キーユニットの出来が侍としての優劣を決すると考えられます。
八丸のゲーム巧者としての素養はキーユニットとしてサイボーグの身体に組み込まれる侍の構成上、大変有利なのであります。それがアタさんとの対戦の中で急速に進化を遂げる八丸によって証明されています。そして、それは八丸と実際に剣を交えるアタさんに最もよく感じられていて、若干の焦りすら見て取れます。ちなみに葉芽道が虫ピン状態で門番ホルダーの残骸に貼り付けられたまま八丸の善戦を傍観しているのは、少しでも動こうものなら四肢をピン留する鈍の柄が爆発させられるので動けないのです。
それで、アタさんが一瞬、<チラ>っと八丸から逸らしているじゃないですか?これはアタさんの「誘い」であります。剣術ではこういうのを「後の先」と申しまして、隙をワザと作って、相手を誘う高度な戦術です。ボクシングでは「カウンター」に当たる技法ですが、これにも相手と同時に始動する「対の先」と、相手より後に動く「後の先」に別れたりします。他にも「先の先」と言って相手が始動する前に叩く、所謂「抑え」というのもありましてややこしいですが、アタさんは八丸を認めざるを得ないんですね。
…というのは、アタさんの目の動きを八丸が拾えるとアタさんが考えたから、初めて「誘い」が成立するのです。1/120フレームを見切る反射が八丸にあるから成立する高度なやりとりであって、これに八丸が気付かなければ全くもって無駄な動きに終わってしまうのです。アタさんが八丸の剣士としての資質を認め、正当に評価したからこそ、こんな風に動くのです。だから、アタさんは八丸を言葉攻めにしてませによね。もう八丸は「負け犬」でも「犬ころ」ではなく「侍」なのであります!!
「!」(八丸)
「いってェェ〜死ぬゥゥーーー!!!」(八丸)
「お前が武士隊なんぞに入れるか!
先端恐怖症の武士などいるか!?
お前は護られる側の人間だ!」(フルタ博士)
<ズガ>(アタ)
それで八丸はアタさんの目の行く先に誘われて結果的にアタさんの刃の餌食になってしまうんです。これが単にアンちゃんを先に殺めようとするアタさんの気まぐれであったならば、それを邪魔した八丸に何らかの反応を示す筈ですが、それを完璧にスルーしています。これはアタさんの意図した太刀筋であって、八丸を目で誘う…アタさんの「後の先」だった訳です。八丸の動体視力と、その入力に対する的確な反応速度がアタさんの斬撃を上回っているから単一な攻撃は意味をなさないのです。
それでアタさんはより高度な「誘い」を用いて八丸を捉えたのであります。逆にそうしなければアタさんが捉えられないくらい八丸の動きが良かったのです。アタさんもフルタ博士の侍魂の消失装置によって自性輪身の半分以上を持っていかれて弱っています。斬撃を飛ばせないなどの制限も確かにありますが、ここはやはり八丸のポテンシャルの高さが目を引きますね。そして、こうした八丸の素性の良さというものがフルタ博士の後悔の呼び水になるという…何とも皮肉な展開が切なくて…僕は好きです。
続きまーす!!