サムライ8 八丸伝 第36話 花一と五空 感想⑨
<フッ>
「ん?」(八丸)
<フッ>(白兎)
「!? アレは!!」(花一)
「…洋犬!!
——そうか!そういう事だったか!」(花一)
「五空 構えろ!
奴らを呼ぶ!!」(花一)
「気をつけて下さい!」(五空)
<スッ>(烏枢沙魔流)(花一)
「あれ!?さらにもう一つ光が」(八丸)
(猫招き)(花一)
「めちゃくちゃ近いぞ!!
って——え!!?」(八丸)
「!?」(千)
八丸が金剛夜叉流のマップ(外の宇宙)に「箱の鍵」の場所を指し示す「光の線」を説明してると突然、接近する新たな「星」が現れたかと思うと、花一さんの『烏枢沙魔流・猫招き』によって八丸達は白兎の艦内に瞬間移動される…と、まあ…こんな感じにドタバタの急展開なのですが、今話にあって花一さんの登場するシーンは非常にテンポが良く動きが感じられて好きです。若干、花一さんの幼女に対する雑で優しさに欠けた対応が気にはなりましたが、セリフ回しに勢いがあって物語にグイグイ引き込まれました。弟子の五空の短切な口調とさっぱりした応答がそれに拍車をかけていていいコンビだと思います。
漫画の「テンポがいい」というのはバトルロイヤル編でやったダイジェストみたいな端折りではなくて、今話の花一さんの登場するシーンのようにセリフと画で読者を乗せちゃう表現だと僕は思います。また、漫画作品ではどう転んでも画は動きませんが、それがあたかも動いているかのように味わわせてテンポや躍動感を生み出す事も可能です。それが漫画家さんの腕の見せ所でもある訳ですが…。今話の花一さんの描写では静止画であるはずの花一さんが誌面上で充分に躍動しているように見えました。それは偏に大久保先生の画力の賜物でありましょうが、岸本先生の見事な「セリフ運び」(ネーム)が上手く絡み合ってスピード感や説得力が生まれたのだと思います。
止まった画が動いているかのうように感じられる…画の技術やアイデアを考えてみましょう。例えば花一さんが「この距離なら飛べる!」という時に、鈍(なまくら)を片手に身構えているでしょ。両足を深く折り曲げて力を溜めています。その姿は今にも大空高く飛び立ちそうに感じさせられます。またそれが同時に切迫した雰囲気や緊張感の演出にも一役買っているのも見逃せない。鈍(なまくら)の存在だってこれから起こるであろう闘いを充分予感させます。そういった細かな演出(ノンバーバルコミュニケーション)が読者の想像力を掻き立てるのです。もうそうなったらしめたもんで、読者の脳内では花一さんがまんまと躍動しちゃうんですよ。そして、それに花一さんのセリフ(回し)が絶妙なスピード感を与えているのです。
こういう表現を見せられるとやはり漫画作品においては「説明」は必要最小限に…と言うよりは無い方がいいと思わせられます。花一さんの具体的なセリフは「目標を捕捉→この距離なら飛べる→洋犬じゃん!!→奴らを呼ぶ!!」だけなんだけど、足りない部分はかなり都合よく読者の脳内で補完できているのです。何で白兎が瞬間移動できるんだろう?とか花一さんの『猫招き』って何ッ!?といった疑問に説明してから結果を見せられるんではなくて、取り敢えずお話を小気味好く進行させながら何とかして読者を納得させて行けばいいんですよ。全ての設定を説明してからお話に入ろうとするからテンポも勢いも削がれる…というか有ったものじゃないっていうね(笑)。
これまで苦言ばっかでしたけど、今話の一連の花一さんのシーンは大久保先生の作画がキレッキレで素晴らしいだけではなく、岸本先生のコマ割りからセリフ回し(セリフの運び)、お話のテンポも何もかも素晴らしいです。僕はこういう表現ができる岸本先生の手腕に惚れた読者の一人として非常に誇らしいです。ホントに花一さん関連はすごく良かったよー。…と、僕なんかそこら辺に転がってる有象無象のおっちゃんでしかない者が不遜にも偉そうなご高説を垂れて申し訳ないと思いながら、作品に対する批判に終始する日々が続いていましたが、今話では本来の岸本先生の作品に再会できた気がしてすごくすごく嬉しかったです。
泣いちゃいそうなのでお話に戻ると(笑)、花一さんって烏枢沙魔流の剣士さんだったんですね。これ見た瞬間、「あー…敵だったのね」と思ってしまいましたが、苺ちゃんの星を爆破したアタさん達とは連携ししてるようでもなかった(ともそうとも言えるけど)ですし、アタさんが金剛夜叉流を裏切って烏枢沙魔流に行ったように、花一さんが烏枢沙魔流から離反しても問題ないと思うので、まだ花一さんが八丸達の敵であるとは断定できないなーと思います。…ってか、できたら花一さんが達麻と旧知の仲だったらいいなーと思っています。花一さんは洋犬=達麻っぽい反応を示してまして、八丸達をいきなり自分の艦に招待(召喚)しちゃったんだもん。猫招き…つーのは烏枢沙魔流の剣技(金剛夜叉流にも『犬掻き』があるからね)だと思うんですよ。問題はその発動条件で何でもかんでも瞬間移動できるようだと無双過ぎてお話が成立しません(汗)。例えば…面識が必要だとか、こそっとマーキング(飛雷神の術っぽく)してるとかの制限でもないと最強過ぎて無理です。それが可能だったら自分の前にとんでもないトラップ(バイオハザードの人間サイコロステーキみたいの)を作っといて敵を呼び込めば最強だもの。それに闘う為に呼び込むにしても、その前に相手の戦力を吟味する必要があると思うんです。でないと逆に花一さんが殺られる可能性だってあるんだから。
つまり、闘わないで話し合う可能性もあるし、僕はそっちの可能性の方が高いと考えています。ここで戦闘に突入したら苺ちゃんも危険に晒される訳ですし、その前にこんなに急いで戦闘に突入する理由が花一さんらに見当たりません。ま…急いで話し合いに入る理由も無いっちゃー無いんですけど(笑)。それと千ちゃんが花一さんと五空を逮捕しないといけないのも気になりますね。千ちゃんはどっちかと言うと善人っぽいし、どのような罪状で花一さん達を追ってるのかも分かりませんから、そこら辺は次週以降で明かされるのかな。戦闘としては「千ちゃんVS花一さん」はあるでしょうね。八丸はまた掛け声専門で後方待機かな(笑)。
でもこの場に達麻(スリープ中)も居ますから、ちょうど達麻の印籠付きの鍵が露出してるのでこの際、この鍵を弁形みたいに八丸の鍵に接続して達麻のサポートを受けながら八丸が戦えれば、それは見てみたいと思います。鍵を抜かれた達麻の体は一定時間を過ぎると塵になって消えてしまうので、そうなる前に戻す…時限設定ミッションというのも面白いじゃないですか。それかこのまま達麻は弁形の義常(ガイコツ?)のように八丸の体に仕舞われちゃうっていうのでもいいかと思います。八丸なんて全てがスカスカなので達麻の鍵くらい簡単に仕舞えますよ(笑)。その時は達麻の侍魂もお忘れなきよう…(笑)。
サムライ8 八丸伝 第36話 花一と五空 ハチマル ケルベロス 了