サムライ8 八丸伝 第42話 次の流れ星 感想⑤
『計画は破棄だ
切り渡した私の侍魂を使え』(カーラ)
(ええい…!!)<ガチャ>(アタ)
「!!」(○丸)
<ズババババ>(アタ)
「ぐああ!!」(○丸)
<ズズズズズズ>(○丸)
「何だ!?」(八丸)
「ロ…ロッカーキューブ!
キューブ宇宙域ではロッカーボールじゃなくて
し…四角柱なんです!」(アン)
※説明はこんな感じに流れの中で誰かが解説すればいいと思いました。今までだったらいちいち流れを切って達麻がウンチクを垂れてましたよね。こういう感じに簡潔に必要な情報を提示すれば何ページも要らない。一コマで充分なのだよ!!こういうので良いんだよ!!ってアンちゃんの説明シーンで図らずも思ってしまいますた(笑)。
<ズズ>
「じゃあこれ…!
散体してるって事か!?」(八丸)
「カーラ様の黒刀だ」<ズズ…>(アタ)
「斬った者を
全て強制的に散体させる
次はお前だ」(アタ)
「えげつねーな…
悟るヒマも無しかよ」(八丸)
<ズズ…>(アタ)
「!?」(竜騎が言うことを聞かない?)(アタ)
「!」(アタ)
(何かあったようだな…)<ブン>(アタ)
※この周辺の描写がスピード感があっていいです!!アタさんの思索にカーラさんとの関係性も見え隠れして非常に多くの示唆を含んでいるように感じます。情報量が多い描写ですね。それとアタさんはここで「黙斬り」を出してるんです。僕はこういう高度な剣戟を待ち望んでいました…が時期遅しでしょうか。ここでのアタさんと八丸のやり取りに関しては次の感想で熱くまとめてみますね(笑)。
「アン」(八丸)
「う…うん!」(アン)
「また一から計画をやり直しだ
お前らは斬る」(アタ)
カーラさんは八丸の不動明王化(精神体となって不動明王の一部になった)を察知して「合鍵計画」そのものを破棄してしまいます…が、何故だかカーラさんはアタさんに「八丸が不動明王になっちゃったよー!!」というように具体的にその危険性を伝えないんです。それが僕はすごく気になっています。事実、八丸によって○角シリーズはあっさりと乗っ取られてしまって、竜騎にもアタさんは拒絶されます。それは八丸が○角シリーズや龍騎をハッキングしてコントロール権を奪ったからで、八丸の鍵を一瞥したアタさんにもネットワークにおける八丸の優位をアタさんも気付いていくんです。ここでの温度差の描き方がすごく興味深いです。
カーラさんとアタさんに情報量の差がある…と申しますか、カーラさんからアタさんに対する情報統制が存在している…。ついさっきまで壁にチューブで繋がれ、四肢ばかりか鍵や侍魂まで奪われて本当に転がっていた八丸が突然「本質が不動明王(のそれ)」になっていますが、普通は「何で!?」と疑問に思いそうだけど、アタさんはカーラさんに指示されるまま行動して、自分で考えている感じがありません。それでも竜騎にアクセスするも拒絶されたところでやっと(何かあったようだな…)という程度に異変を感じていて、咄嗟に「合鍵計画」の破棄を決めたカーラさんとアタさんの危機感がまるで違います。
八丸があっさり悟りを開いて不動明王になっちゃった…というのが突飛過ぎるんですが、散体しても意識を残して「精神体」となり「上層次元」に移行する=解脱(?)は実はすごく簡単です。アタさんくらい優秀ならそのノウハウさえあれば簡単に解脱できちゃうんじゃないでしょうか?カーラさんはそれが分かっている…つまりカーラさんも不動明王化しているから、八丸がどのようにして不動明王化(精神体化)したのかに触れないようにしているのではないか?と僕は疑っています。カーラさんは何らかの理由があってアタさんには不動明王化して欲しくないと考えているのではないでしょうか。
ところで、不動明王化ですけど、これは仏教の「阿頼耶識」(あらやしき)という考え方(感じ方?)を当て嵌めると理解しやすいかも知れません。ざっくり言うと「一つの命が一つの宇宙の中で転生を繰り返す」というような考え方があって、「行い」が「業」(ごう)として蓄積され「阿頼耶識」という「識」(=意識、心、生命力…「阿頼耶識」は「八識」あるうちの最深層)を形成していると考えられています。それぞれの「阿頼耶識」が存在し、それぞれに時間も法則も個別…別々の宇宙という考え方で、それらを八丸の不動明王化に適用すると、不動明王(オリジナル)と八丸の明らかな見識の相違、齟齬がフラットになります。
人間だろうが侍だろうが知ってる人だろが知らない人だろうが身内だろうが他人だろうが、死んでも想い(志)は残り繋がっている…というのが八丸が考えた世界の法則…その結果が「阿頼耶識」であります。それが勘違い、或いは思い込みであろうと、散体してハードウェア(=肉体)を失ってもH粒子に精神が保持されて「精神体」として転生が許される…というルールを不動明王(オリジナル)が定めてまして、それによって八丸は転生を果たし自分の「阿頼耶識」を固定できたのです。データ保存する為には必ずハードウェアが必要になります。「肉体」という拠り所(ハードウェア)が「H粒子」に変わっただけなのですが…。
不動明王と繋がる事で情報集積体に蓄積された知識を扱えますし、逆に不動明王は新しい知識を得るメリットがありウィンウィンの関係です。また八丸の様子を観察すると意識に関しては解脱前後でほぼ変化していません。それは不動明王のネットワークの一部になったとしても八丸の「自我」が保持されているとう事です。つまり、防壁を介して両者は繋がっているのです。あるいは不動明王が八丸の自我を尊重している可能性もあります。多分、不動明王も八丸と並列して存在する「阿頼耶識」の一つなのだと思います。それと不動明王は言及していませんが、不動明王と繋がる義務も本当のところはないものと思われます。
それがカーラさんの不動明王に対する認識やそれに起因する危機感とフィットします。僕はカーラさんもまた転生者であると考えます。しかし、カーラさんは防壁を固め不動明王とは繋がらなかった…。同じ理由でカーラさんはアタさんにも転生して欲しくないのだと思います。ところで、不動明王とカーラさんや八丸との違いは物質世界に関わる為のデバイスの違いでしょう。八丸は自分の鍵を起点にそれと接続していた○角シリーズの鍵を侵食しました。カーラさんも散体(転生)後、自分が残した鍵を起点に再度受肉した筈。それに対して不動明王はH粒子(彼の三輪身の一つ)として宇宙全体を満たした為に再び受肉する術がないのでしょう。
不動明王がこの宇宙に来てすぐに創ったカーラさんは人間族や鬼族よりも上位の生命体であろうかと思います。転生後の受肉方法に関しては更なる描写が必要です。さて、ここでアタさんが一角以外の○角シリーズを黒刀によって散体させてしまいました。八丸が「悟るヒマも無しかよ」とボヤいてるように、八丸が乗っ取った個体は「情報体」として固定されずに消失したようです。○角は個別に行動できているのでそれぞれに八丸のコピーがインストールされていた筈ですから個々に転生が可能だったのでしょう。しかし、できなかった…つまり、一度悟りを開いても散体毎に悟る(意識を保ったまま死ぬ?)必要があるのです。
状況から判断するなら、八丸の場合は今乗っ取りに成功している○角シリーズが一掃されてしまえば、再び受肉する為には八丸の残された鍵を再びロッカーボールに差し込むなどの物理的な支援が必要になるでしょう。そして、残された八丸の転生の依代(よりしろ)は一角1体のみなので八丸は何気に大ピンチであります。カーラさんがアタさんに虎の子の自分の侍魂を切り渡したのは恐らくこの局面を想定していたからだと思います。ところで童子斬高綱も赤い侍魂でしたけど、黒刀とは違う何かしらの能力があったのかも知れませんね。烏枢沙魔流はそれをマストで回収しようとしてました。童子斬高綱・血吸が今は達麻の手にある…というのも何か意味がありそうです。
ちなみに「転生(不動明王化)」とは明晰夢(めいせきむ)のようなものなのでしょう。夢を見ながら「これは自分の夢だ」というアレです。「眠り」と「死」はとてもよく似ています。例えば赤ちゃんが眠り際に泣いてお母さんを困らせるのは「眠り」が怖いからです。それをお母さんが抱っこして赤ちゃんの背中をトントン叩いて子守唄を歌いながら歩き回ると寝てしまいます。あれは寝る事そのものを忘れさせるテクニックです。より原始的な命にとって「眠り」とは「死」そのものなのであります。自分が眠っている事を意識しながら眠る事は難しいです。同じように自分が死んだという認識を持ち死んでも尚意識を繋ぐのも難しいです。
しかし、この世界ではそれさえできれば「散体」しても「死」が「死」ではなくなり、意識は「情報体」として転生を遂げられるのです。「転生(不動明王化)」とは「阿頼耶識」を知覚する事なのであります。ホントにちょっとしたノウハウなので、これを何で不動明王は広く告知しなかったんだろうと思いますが、それは不動明王もカーラさんで懲りていて、八丸のようなどうしようもないアンポンタンの方が御し易いので人選に気を遣っているのかも知れません(笑)。そう考えると不動明王の目的とは情報集積体の定期的なアップデートという極めて保守的(?)で世界の安寧とはかけ離れたチンケな欲求に思えて悲しいです(笑)。
続きまーす!!