サムライ8 八丸伝 第13話「勇を見た」③
「猛犬が今や文字通り猫の目か」(アタ)
<クル>(達麻)
「弟子に甘い…
変わりましたね師匠」(アタ)
言葉少なでしたが、達麻の見事のケアが八丸達に行き渡ったるのをアタさんは遠間で眺めていました。恐らくアタさんの時は達麻も若かっただろうし、今と違って怖かったのかな?それをアタさんは想い出していたのか、あの師匠がこんなにも丸くなったのだ…的な感慨があったのではなかろうかと思います。アタさんは自分に教えてくれていた頃の達麻が好きだったと思うんです。勿論、今もアタさんは達麻を尊敬しているし、そんな達麻に自分が勝る状況にある種の愉悦を憶えているように感じます。
この何とも言えないドロドロした感覚は、昔付き合ってた女の子と再会した元カレの気持ちに似てるのかも知れません。めちゃくちゃ好きで恋い焦がれた女性と久しぶりに再会して、その子が自分の知らない誰かと仲良くしてるのをジトーッと見てるアタさん(笑)。そういう目でもう一度アタさんの「猛犬」が「猫の目」に変節した達麻への想いに悋気(りんき)に溢れてて、こんなに大きくて立派なアタさんだけど、お前が猫だったのかよーッ!!…という少年少女には良く分からないツッコミを入れてました(アタさんが突っ込まれてた…っていうね)。
ま…達麻にも思うところが多いのは確かです。例の「バク姫」(でしたっけ?)の諍いも達麻にしてみれば憤懣(ふんまん)やるかたなしでしょうし、今ここで愛弟子(まなでし)を袋叩きにされた事も到底看過できないイベントであります。表面的には穏やかですが、達麻の腹の底は煮えたぎる火口のように音を立ててる筈です。そして、そんな達麻の穏やかな怒り方が、達麻の昔を知るアタさんには必要以上に伝わって、逆に怖いのです。だからか、アタさんが柄にもなくよく喋りますよね。
「!」(アタ)
<クン><クン>「お前はもはや
弟子などとは思っておらん」<ススス>(達麻)
<ズズ><カシュ>(達麻)
<ズズズ><カション>(達麻)
「!」(アタ)
<ズボッ>「くっ!」(葉芽道)
「…それは何のマネです…
師匠…」(アタ)
<スッ>(達麻)
「侮辱するのも…
大概にして下さいよ…!」(アタ)
『金剛夜叉流・犬掻き』<フッ>(達麻)
「!?」(アタ)
「ぐっ!!」(アタ)
達麻が侍魂を腹に仕舞って地面に散らばったタコ焼きの中から爪楊枝を拾い上げた時に、達麻の一番弟子で相当の手練れの(達麻と同格?)のアタさんが、達麻のその後の行動が予想できなかったのが、僕には若干不思議です。…と言うか、アタさんは達麻の選択した剣技が分かっていて、まさか普通の人型相手に、その剣技を使いますか!?師匠!?と、ある種、高を括っていたのではないかと、僕は思うのであります。ここにはアタさんはまだ自分を達麻が大切に想ってくれていると信じたかったんじゃーないかと、僕は思うのです。
やっぱそこには師匠・達麻に対するアタさんの想いがあるのだと、僕は思うんですよ。それとは別に、達麻が自身の侍魂を仕舞い、路傍に落ちるタコ焼きの爪楊枝を拾い上げたのは、剣技の効果範囲を極力小さくする為だったのだと思います。しかし、そこにアタさんに対する遠慮は微塵もなく、この星に対する悪影響を排除する為だったでしょう。そもそもここに居るアタさんは本体ではなく自性輪身でありまして、その仕組みの提示はありませんが、恐らく分身体(複製)なのだと思います。
達麻の名誉の為に書かせて頂きますが、自性輪身の作用と反作用は達麻クラスにおいては当然周知されている筈です。そして達麻は自分の弟子だけでなくアンちゃんや(全然使えませんが)最早一人前の葉芽道に到るまで手厚い心配りを怠らない人徳の持ち主であります。それが自性輪身のアタさんに躊躇ない…っていうのは、ここにいるアタさんを消し飛ばしてしまっても本体は残るからです。痛いとか苦しいとかはそれとは別ですけど、それ以上の悪事を既にアタさんもやっちゃってますからね(笑)。
達麻にしてみればアタさんにもいいお灸だ…くらいに思ったのかも知れませんし、本体のアタさんをみじん切りにしても収まらないくらいの私怨が達麻にはあるのかも知れません。そこら辺は例の「バク姫」の件の詳細が分かりませんのでアレですが、アタさんが心の片隅で未だに達麻の信任が得られるかも知れない…くらいに探っている甘さみたいなものを、達麻がぶった斬るようにアタさんを突き放しているのだけは、宇宙の遥か彼方のアタさんの本体にちゃんと伝わればいいなーと、僕は願います。
「オレが診る!!」(葉芽道)
「ハイ!お願いします!」(八丸)
「八丸はお前には渡さん!」<ゴオー>(達麻)
<ズズズ>『金剛夜叉流――』(達麻)
「!!!!
まさか!!!星砕きをここで!!?」(アタ)
「狙うのは星ではなくお前だ
大気の刃に喰われろ!」(達麻)
<スッ>『大気剣!!!』(達麻)
<ズオ>
「!」(アタ)
この金剛夜叉流・大気剣という剣技ですが、巨大な低気圧を創り出す剣技なのだと、僕は思いました。低気圧とは上昇気流がコリオリの力で指向性を帯びた大気の流れみたいなもんです。達麻は爪楊枝を起点に高密度にして高エントロピーの空気の塊を作り出し、それをより光速に近い剣速で撃ち出してアタさんの居る座標に超強力な低気圧=竜巻を作り出したのだと、僕は考えます。『NARUTO -ナルト-』でもガイの「八門遁甲第七驚門・昼虎」という体術がありましたが、それと似てると思います。
ちなみに、剣速が光速に近い…というのがミソでありまして、運動エネルギーは速度が光速に近付くに連れ無限大に収束するので、トンデモナイ衝撃が発生します。そのエネルギーを大気の刃に変えて対象を襲わせる剣技でありまして、これがもっと規模が大きくなれば星であっても粉々に砕けるエネルギーが発生するでしょう。『NARUTO -ナルト-』のガイの場合はその反動で車椅子での生活を余儀なくされましたが再生可能なサイボーグの身体であれば問題なしで、この部分は相当不公平ではあります(笑)。
でも、あるものは何でも使うのが戦闘の定石ですから、大気が使えるならそれを積極的に使いましょうよ!!めっちゃエコだし、汚染が皆無だし…。アタさんとしては、まさかそんな壮大な剣技を自分(みたいなもん)に使うかよー!?まさか、使ったりしないよねー!?師匠!?という気持ちだったんですよ。何か、この件(くだり)のアタさんには不相応な…達麻の攻撃(=剣技)に対する対応力が腑に落ちなかったんですが、やはりアタさんは達麻に心の何処かで甘えてる気がするんです。
逆にここまでアタさんが有り得ないと思えるほどの大技を達麻がここでアタさんに仕掛けた…というところに意味があったと思うんです。そのくらい達麻は怒っているんだと、アタさんの本体にはちゃんと伝わりますからね。しかし、この対応…何だか達麻が八丸にするのと似てる気がする…んです。何もここまでしなくても…と思えもするんだけど、もしかして、若き日のアタさんとは八丸に似てたのかも知れませんね。もし、そうだとすればアタさんが募らせる悋気(りんき)が腑に落ちますけどね(笑)。
(くそ…!
この程度の大気剣に…
自性輪身では…限界か!)(アタ)
<ヒュガ>
「くあああーーー…」(アタ)
<ゴゴゴゴ>
<グラグラ>
「うわっ!!」(葉芽道)
「!!!」(アン)
<ゴゴゴゴ…>
「……これが…あの…」(葉芽道)
葉芽道がまだ達麻を達麻だと知らなかった時に、達麻の金剛夜叉流の免許皆伝の印籠を見せられた時に、「星砕きの…」と通り名を増やしましたよね。達麻が作り出した巨大な竜巻を前にした葉芽道が思わず口走った「……これが…あの…」とは、この星すら砕きかねない危険な力に思えたという事なのでしょう。そして、これが達麻の伝説の侍たる「力」の一端なのでありましょう。そう言えば、赤胴鈴之助も「真空斬り」(だっけか?)を会得する修行してましたが、オッチャンとしては懐かしい限りです(笑)。
確か、赤胴鈴之助は竜巻を作り出して、それを手刀で二つに割って、分割された竜巻が衝突して破壊力を強める剣技(刀は使いませんけどね)だったかと思いますが、もしかしたら大気剣も、一振りで済まさずに、二振り、三振りで破壊力が相乗的に増える発展技があるかも知れません。ところで、何で竜巻が「獣」のイメージだったか?というのは達麻の作り出したこの剣技のタネになる空気の塊の影響ですかね。それかアタさんの恐怖心でしょうか?でも、最悪…カッコイイという理由でも僕はヨカですから(笑)。
「!」(葉芽道)
<タッ>(達麻)
「!?」(八丸)
「誰だ!?」(八丸)
「アタは消失した…」<プシュ~>(ダルマ)
<プル>「…この技の後は
濡れた猫みたいになるからな……
まぁ…気にするな」(達麻)
「え!?し…師匠なの!?」(八丸)
達麻が痩せた濡れ猫になっているのは、大気剣が低気圧(上昇気流)を生み出す剣技だからで、大気が上昇すれば空気は膨張し温度が低下して湿度を増し飽和に達して雲ができて雨が降るからだと思います。それと達麻が痩せてるのは光速に限りなく近い剣速を生み出した結果、身体が損傷を来たし、その修復を行っているからです。うちの犬もそうですけど、毛深い子が濡れるとそりゃもう貧相になりますから!!これが人間だとやつれた感じが逆に俳優が不倫会見で同情を誘いイケメンっぽく映るんだけど、猫じゃねー(笑)。
ま…しかし、天変地異みたいな結果を生む剣技を見せられて、誰もが達麻を認めるいい機会になりましたね。何せ、ナリがナリだけに、デフォで軽く見られがちなんです。ホントに物事の奥底を見抜くなんて難しいです。人の好意なんてほとんど外見で決まりますから。一説によれば「0.5秒」で好きか嫌いか?を判定するそうです。大脳生理学の研究で論文まで出てるみたいですが、人はその人が判定する前に脳がその短時間で好きか嫌いか?を決めるそうです。心眼もあれば越した事はないけど、外見も大切なんですね。
続きまーす!!